からすこの日記

わたしの大好きな本や映画について紹介するブログです。インターネットの片隅から愛をさけぶ!

「白い薔薇の淵まで」 中山可穂

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○あらすじ

ジャン・ジュネの再来とまで呼ばれる新人女性作家・塁と、平凡なOLの「わたし」はある雨の夜、書店で出会い、恋に落ちた。彼女との甘美で破滅的な性愛に溺れていく「わたし」。幾度も修羅場を繰り返し、別れてはまた求め合う二人だったが……。すべてを賭けた極限の愛の行き着く果ては? 第14回山本周五郎賞受賞の傑作恋愛小説。発表時に話題を読んだ受賞記念エッセイも特別収録。

 

新人女性作家・塁と会社勤めのクーチという二人の女性の恋の物語です。

こんなにも取り憑かれたように本を読んだのはいつ振りだったかな、と思うくらいでした。

実は冒頭の場面から、ぐっと引き込まれていました。こんな文章があったからです。

 『普段ならめったに読まないような山本周五郎室生犀星なんかを、揚げたてのコロッケや残り物のカレーを恋しがるみたいに欲していた。』

クーチがニューヨークで紀伊國屋書店を訪れた場面での一文。

室生犀星はわたしの大好きな詩人で、この本を読み終えたときに室生犀星のある詩を思い浮かべました。

「永遠にやってこない女性」

秋らしい風の吹く日
柿の木のかげのする庭にむかひ
水のやうに澄んだそらを眺め
わたしは机にむかふ
そして時時たのしく庭を眺め
しほれたあさがほを眺め
立派な芙蓉の花を讃めたたへ
しづかに君を待つ気がする
うつくしい微笑をたたへ
鳩のような君を待つのだ
柿の木のかげは移つて
しつとりした日ぐれになる
自分は灯をつけて また机に向ふ
夜はいく晩となく
まことにかうかうたる月夜である
おれはこの庭を玉のやうに掃ききよめ
玉のやうな花を愛し
ちひさな笛のやうなむしをたたへ
歩いては考へ
考へてはそらを眺め
そしてまた一つの塵をも残さず
おお 掃ききよめ
きよい孤独の中に住んで
永遠にやつて来ない君を待つ
うれしさうに
姿は寂しく
身と心とにしみこんで
けふも君をまちまうけてゐるのだ
ああ それをくりかへす終生に
いつかはしらず祝福あれ
いつかはしらずまことの恵あれ
まことの人のおとづれあれ

 

わたしがこの物語のなかで一番惹かれたのは、塁とクーチのお互いを求める切実さ、一所懸命さでした。真実のように感じました。勝手な想像ですが、塁がクーチと別れている時、この詩のように彼女のことを思って過ごしていたのかな、と思いました。

きっとこれから何度も読み返すんだろう、と思った格別な一冊でした。